クライアントを選ぶ

コーチAに勤めていた時、クライアントの個性や年齢、役職がどうであれ、対象を選ばない広さは強みだった。コミュニケーションを仕事にするコーチであれば、対象を選ばないのは当然と思っていたが、実際は、組織に所属するコーチとして、アサインされる数や幅の広さが”有能さ”の一つの尺度になっていたことから、磨かれていった能力なのかもしれない。
 
そして、コーチとして独立して10年近く経つ。GiFT partnersの看板を掲げてから、クライアントは業種や規模は問わず、ただ一つ、経営者に絞った。しかも、取締役などの”経営陣”は含めず、サラリーマン経営者も含めず、創業の経営者のみに絞った。当時の理由はシンプルだ。彼らは一切の権限を持っていた。やるならやる、続けるなら続ける、止めるなら止めるが明快だった。「コーチングの成果を数値化して示す」必要もなかった。彼らの主観で成果を感じることができたかどうかが全て。コーチとクライアント1対1の関係で、全てを決めていくことができた。そのシンプルさは自分のスタイルに合っていた。

実は、創業してから一度だけ、仲間に頼まれて、世間に名のよく知れた外資系コンサルティングファームの”経営陣”の4名をコーチしたことがあった。いずれも非常に頭の切れるスマートな人たちだったが、人間的な魅力と迫力には乏しかった。4人にそれぞれ「なぜその仕事をやっているのか」「その仕事を通して、社会をどうしたいのか」と尋ねたことがある。しかし、誰もその質問にストレートに答えることができなかった。せいぜい「クライアント企業の発展のため」止まりで、そこから先に繰り出される「なぜ?」への回答には困っていた。もちろん、それでもいい。ただ、経営者としての魅力は、そこへの意志が起点になっていることが多い。その経験も、やはり自分は創業の経営者一本で行こう、との想いを強めた理由だったかもしれない。

10年経って、さらに見えて来たことがある。自分のコーチングと相性がいいクライアントについてだ。限られた経験からになるが、年齢は30代後半以降で、売上が10億円以上あると相性がいいらしい。上限は感じていないが、現時点では売上600億円ぐらいで、年齢は65歳ぐらいまでの範囲に収まっている。

会社を大きくしたい、売上をもっと伸ばしたい、マザーズに上場させたい、というギラギラしたタイプは、私よりももっと適したコーチがいる。経営の具体的な助言が欲しいというのであれば、コーチというよりも、現役の経営者をメンターや顧問につけた方がいい。

では、改めて、なぜコーチングなのか。

究極は「経営者としての成長すること」になる。以下は実際にクライアントから言われたことになる。

「40歳を過ぎて、以前に比べて、他者からの学びの幅が狭くなってきているように感じる。この先を行くには、自分を深めることから学んでいくしかないのではないか」

「ある程度の地位も資産も手に入れた。社員も増えて責任も大きくなった。もう自分のエゴだけでは経営できない。自分はなぜ、何のために経営をするのか、経営者をしているのか。棚卸しをして再構築する必要性を感じている」

自分を深めることで自分の言葉で自分の志を語りたい。そのタイミングが30代後半から40代に来る経営者が多いということなのかも知れない。心理学で言う「ミッドライフクライシス(中年の危機)」にも重なる年齢だ。

改めて、経営者として成長していくにはどうすればいいのか。いろいろなやり方があるが、最大の一つが「自己を探求することで、自分の内側からから学ぶ」ことであり、有力な手法としてコーチングがある、と言えるのだろう。

おかげさまで、GiFT partnersではいま、企業の創業経営者に加えて、学校法人の経営者、医療法人の経営者、国会議員など、クライアントは多分野にわたっている。いずれも本質を大切にする人たちばかりで、私の方が多くを学ばせていただいている。自分のキャパシティのせいで、クライアント数は制限しているが、もう少しだけ幅を広げていきたいと思っている。