GiFT monologue-25「ラポール(rapport)とゼロ磁場(zero-field)をつくる」

似て非なる大切な考え方を二つご紹介します。

まず一つ目が「ラポール」です。コーチングでは、コーチとクライアントの間に安心感や信頼関係のあることが、良いセッションを行うための基盤になりますが、その安心感のある関係性を「ラポール」と言います。

では、何が安心感や信頼関係をつくるのでしょうか。

ベーシックな理解として、人は自分と“同じ”に安心感を抱き、“違う”に不安感を抱くということです。ベテランのコーチは、安心感を醸成するために“ペーシング”を自然に行っています。“ペーシング”とは「相手のペースに合わせること」。合わせるのは、話題や会話のテンポはもちろん、声のトーン、スピード、高さ、間、表情、しぐさ、姿勢etcです。その本質は、呼吸にあります。相手の呼吸に合わせる、つまり、息を合わせること。それがラポールを築く要諦です。

もう一つの重要な考え方に「ゼロ磁場」があります。「セッションの磁場をゼロにする」とは、相手と繋がりつつも、自分と場を可能な限りニュートラルな状態に置き続けるということです。クライアントが純粋に自らの意志で自分を掘り下げ、自分の奥底にある真のパッションに触れて、それを自分の本当の声で表現するためには、セッションの磁場は限りなくゼロである方がいい、という考え方です。

コーチが、会話や対話の方向性にいかなる影響力も発揮せずに、相手を、ただ聴く、ただ受け入れる、ただ受け止めることができる。それらを含めて、クライアントと、ただ一緒に居ることができる。頷き一つ、相槌一つ、話を聞いている時の姿勢や表情一つをとっても、それは相手にとって何らかのメッセージになります。「私はあなたのその意見に賛成です。同じ意見です。違います、反対です」「それはとても良いです。いえ、悪いです」「とても共感しています。していません」etc。ここで問われるのは、コーチが自分
自身の些細な“言動”がクライアントに及ぼす影響について、どのぐらい自覚的であることができるかということです。

話は少し飛びますが、アメリカの大学院でカウンセリングを学んでいるときに、名物プロフェッサーの模擬セッションでこんなことがありました。クライアントがセッション中に泣き始めたのです。その時、プロフェッサーはそのクライアントが泣いているのを、ただ見守っていました。声もかけずに、テーブルの下にあるティッシュも渡さずに。オブザーブの生徒の一人が、気を利かせて別の場所にあったティッシュボックスをクライアントにそっと渡そうとすると、プロフェッサーは静かに、クライアントに気づかれないようにサインを送ってその行為を止めさせました。

セッション後の振り返りで、プロフェッサーがこの行為について語りました。

「クライアントがカウンセラーの前で泣く、というのはよく起こることです。その時、カウンセラーとしてどう振舞うかについては、もっと自覚的でいなさい。

カウンセラーがティッシュをクライアントに渡すとき、どのようなメッセージが相手に飛ぶのか。あるいは、その一見、“親切な行為”が、自分の内面のいったいどこから来ているのか、よく考えなさい。

もちろん、それは親切心からなのでしょうが、それと同時に『泣くのは悪いことだから、もう泣き止みなさい』というメッセージが飛ぶこともあるのです。そして、それ以降、そのクライアントはあなたの前で涙を見せることは二度と無くなるでしょう」

では、ただ見ているのが正解なのでしょうか。必ずしもそうでないところが、カウンセリングやコーチングの世界の、複雑で、難しくて、奥深いところです。