「リーダーとして一番大切な能力は、『自己変容型知性』を持つことなのでないか。自分は、これまで非常に優秀な人材を高いポジションで採用して来た。しかし、振り返って見ると、その後も想定以上の活躍を続けているのは、入社後もこの知性を伸ばし続けているメンバーだ」
「では、どうすればその知性を伸ばし続けることができるのか。そのためには、何よりも自分の思考様式や価値観を客観的に見る力のあることが必要になる。巷で、リーダーに求められる能力は色々言われているが、その起点となる最も重要な能力は、『自分を客観的に見る力』だと思う」
セッションの中でのクライアントの言葉だ。
彼は一部上場の経営コンサルティンググループの創業経営者だ。まだ40代で、独創的で、地頭がとても良い。2年後に時価総額1000億円を目指している。
そのセッションの後、関連する本を探して、いくつか読んだ。
一つは、「観察力の鍛え方(SB新書 佐渡島庸平 著)」だ。佐渡島氏は、こう書いている。「観察力こそが、さまざまな能力につながるドミノの一枚目」だと。ちなみに、彼は、観察力を鍛える有効な方法の一つに美術鑑賞を挙げていた。
彼はお釈迦様・仏教の教え「五蘊」にも少し触れて、こんなことも言っている。「僕たちは人間の外ばかりを観察してきたが、心の中を観察する力は2000年前の人たちに超えられていない可能性がある」。
私は仏教には昔から興味がある。彼のその文章を受けて、現代を生きる本物の禅僧の一人、藤田一照さんの本をいくつか読んでみた。その中の1冊「禅僧が教える考えすぎない生き方(大和書房)」には、「自分の内面世界をただ見ること」について、ブッダや禅の言葉はもちろん、他分野から知見・事例を用いられて、わかりやすく書かれている。しかし、坐禅の本質がそうであるように、観察する力を鍛えるには、頭での理解だけでなく、どうしても、身体を通した学びが必要になる。
話を戻して、佐渡島氏の言うように「観察力を鍛えるには美術鑑賞」なのだとすると、具体的にどうすればいいのか。それについて、貴重な示唆をくれるがこの本だ。
「13歳からのアート思考(ダイヤモンド社 末永幸歩著)」
この本を読むことで、我々が日頃、いかに”観ていないか”について深く気づくことができる。そして、この本の中で紹介されている絵画を「鑑賞」することで、「自分のものの見方」がよく見えてくる。読みながら”体験”を伴うことのできる、とてもよく出来た本だと思う。
自然科学の世界でも同様に、「観察する力」は大切になる。養老孟司先生の近著「養老先生のさかさま人間学(ぞうさん出版)」はもともとは小中学生向けに書かれている本だ。だからこそ、ためになる話が分かりやすく、面白く書かれている。
本の中で、養老先生が、猫とこんなやりとりをするシーンがある。
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「自然はなぜこんなに美しいのだろう」
「それは、この自然は”答え”だからだよ」
「?」
「僕たちがいま見ている生き物や自然、それは一つの解。つまり、数億年の歴史の中で生物が生き残るために解いた答えそのものなんだ。だから、その見事な姿が『美しい』と思うのです」
「1日10分でいいから、人間が作った以外のものを眺めるといいんだ」
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僕自身の自然を見る意識が、少し変わる。
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そのやりとりを受けて、別の章で「研究」のやりとりが交わされる。
「学校では『問題』があって、『答え』を出す。研究は、その”さかさま”なことをしないとダメなんだ。
「『答え』を見て、『問題』を探る…」
「先ほど、生き物や自然は『解』だと言った。それが生き物を”見る”ってこと。それが研究なんだよ」
「ふーん、答えから問題を考えるって、楽しそうだね」
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自然をそういう見方をしたことはなかった。ここで言う「見る」とは「観察」のことだろう。自然や日常や現象を観察をして、そこにある”何か(答え)”に気づく。そして、それがなぜなのかを解き明かしていく。
「観察する力」「客観的に見る力」とは、自分の外側に向けても、自己の内側に向けても、本当に大切な力なのだと思う。