コーチングを謳う会社の提供するサービスには、大きく2つあります。「コーチングをティーチングする(教える)」と「コーチングをする(コーチする)」です。この2つは似ているようで、まったく違います。
前者の代表が「研修」であり、「スクール事業」です。前職のコーチAでは当時、「研修事業」も数多く手がけていましたが、「本物のコーチが講師をする」という点で差別化を図っていました。ですから、社内的には“研修”という呼び方をせずに、ICT(Interactive Coach Training)と呼んでいました。
そのようなコーチングを専門とする会社でも、1on1 のできる「コーチの育成」には非常に苦労をしていました。実は、「コーチングを教えることのできる研修講師の育成」は比較的容易です。なぜなら、研修は定型化しやすく、オブザーブもできるからです。言い換えると、1on1のコーチングは、オブザーブしにくく、定型化しにくいということです。
では、そこをどう突破するのか。
プロフェッショナル・コーチ同士で、お互いにコーチングをし合う、というのも一つの手でした。ただ、その真剣さは、“実際のコーチング”には及びませんでした。本来であれは、外部のコーチにコーチをしてもらう方が効果的なのでしょうが、当時は、ノウハウの流出など微妙な問題もあって出来ませんでした。あるいは、クライアントの許可を取り、セッションを録音をして、先輩コーチに聞いてもらってフィードバックを受けるというやり方もあります。しかし、時間と手間がかかり過ぎました。
では、視点を少し変えて、私がアメリカで学んできた臨床心理学の世界では、カウンセラーをどう育てていたのでしょうか。それは、大学院の授業での大量のロールプレイとフィードバック、教授陣によるデモ。そして、一番重視されていたのが「プラクティカム」と呼ばれる現場での実習(実践)と、厳選されたスーパーバイザーによるスーパーバイジング(指導)のセットでした。
スーパーバイザーとは、毎週、1on1のセッションを時間を作り、スーパーバイジー(スーパーバイズを受ける人/カウンセラーの卵)がカウンセラーとしていかに成長をしていけるか、助言をしてくれる人のことです。時にティーチングを、時にカウンセリングを、時にコーチングを、つまり、相手の成長段階に応じてあらゆる手法を用いて、成長をサポートしてくれます。これも手間と時間がかかりますが、その時間数は、カウンセラーとしての資格取得の条件にも関係してくるので、みんな真剣でしたし、機能しました。日本でいうと、「その道の師を持つ」に近い感覚かもしれません。
「コーチをどう育てていけるのか」ということは、延いては、「コーチである自分自身をどう育てていけるのか」ということです。ベストなやり方はないかもしれません。ずっと模索し続けるであろうテーマだと思うのです。