1兆ドルコーチ

余白に書き込む読み方を「マージナリア」と言うらしい。著者と対話をしながら、思いついたことを余白に書く。11月4日の日本経済新聞で作家の阿刀田高さんが書いていたが、実は、私もそういう読み方をする。
 
その一方で、「本は、投資です。一つでも二つでも実践するもの得るために読んでいます」とは、クライアントでもある経営者の言葉。「ああ…、対話で自分を深めるではなく、実践するものを得るために読むのか」。となると、読み方もまた違ってくる。
 
もちろん、両方大事なのだろう。
 
さて、2019年11月13日に販売されたばかりの「1兆ドルコーチ」。
 
総じて、アメリカで名をなしているビジネスコーチの多くは、1on1というよりも、経営チームをコーチングする人、なのかもしれない。ビル・キャンベルの、関係性や場のダイナミズムを捉える感覚、人間洞察あふれるメッセージング、それらを支えるポジティブなパターナリズム。コーチングは、パーソナリティとスキルの掛け算で決まるから、“メソッド”のみを採り上げても、彼のようなコーチングを行うことはできない。彼の人柄、あり方、人間性が鍵なのだろう。そういう意味では、コーチングは、コーチの生きざまだ。
 

読後には、「フォーカスするのは、課題ではなくチームとコミュニティ」「コーチの資質は、愛情と厳しさ、率直さと信頼」「クライアントとの関係性としては、公でも私でもなく、人としての絆」みたいなキーワードが心に残った。でも、文字にしてしまうと、他の本に書いてあることと変わらないな…。

実は、この本は本人が書いたわけではないから、彼のコーチングの神髄は、この本がそうであるように、彼が残した繋がり、錚々たるクライアントが残す言葉から想像するのみだ。

本に書かれた彼へのオマージュの向こうにあるものは何なのか。本から微かに感じられる自分との“重なり”を手掛かりに、日々の実践の中で明らかにしていこう。そして、もうしばらくしたら、読み返してみよう。