GiFT monologue-7「コーチングのスキルセット」

「コーチはアドバイスをしない」というのが、私がコーチA時代に徹底して教わったことでした。経営コンサルティングではない業界をつくっていく、という矜持です。しかし、実際はアドバイスを求めるクライアントが非常に多かったことも事実でした。クライアントは、話をただ聞いてもらうだけでは、満足しないのです(実は、クライアントにとってはアドバイス、つまり答えをもらう方が楽なのです)。

では、コーチはアドバイスをする以外のところで、その価値をいったいどう生み出すのか。

コーチングの代表的なスキルセットに、「①聴く」「②質問」「③フィードバック」「④承認」「⑤リクエスト」があります。では、それらを組みあわせると、その会話は、“コーチング”になるのか。あるいは、その価値を生み出せるのか、というと…、必ずしもそうではありません。

例えば、「聴く」とは、どういうことなのか。では「何をもって、聴く、という行為が成立するのか」「本当に聴いてもらっている、と感じる時の、聴き手の佇まい、眼差し、雰囲気は、どういうものになるのか」。「そもそも聴き方は定型化できるものなのか」「聴くと合意すると受け入れるとは何が違うのか」「本当に聴かれた時、人にはいったい何が起こるのか」「その可能性と限界は?」。「聴く」一つをとっても、非常に奥が深い世界です。それは“スキル”と呼べるものなのかもよく分からなくなってきます。もしかしたら、スキルセットの本質は、一つ一つのスキルを支える在り方と、それが提供する価値に対する深い理解を養うことの方にあるのかもしれません。

そのために、コーチには、すべての“スキル”とは言わなくとも、あるスキルを通して、自分が変わった、救われた、洞察を手に入れた、腑に落ちた、と思える、深さのある体験が必要になるのだろうと思います。そして、その体験こそが、そのコーチのセッションを支える礎になります。私にとってのそれは、日本で受けていたコーチングではなく、アメリカ留学時代に受けていたカウンセリングの中にありました。