時間を止める

経営者とのコーチングで何をしているのかと、よく尋ねられる。

ひとつ意識しているのは、毎回のセッションを通して彼らの時間を少し止めること、彼らの生きる時間の流れを少し緩やかにすること。
 
言うまでもないことだけど、経営者は高速の世界を生きている。毎日、社内の誰よりも多くの人と出会い、多くを経験し、多くを意思決定し、すべての責任を負う。だから、高速で成長をする。

では、なぜそんな彼らの時間を止めるのか。
 
それは、彼らがいま自分がいる位置を知るために。どこに向かっているのかを確認するために。自分の真の想いと繋がるために。
 
彼らの意識を、山積する課題や、目指す目標・ビジョンなどの外側(未来)から、自身の内面、足元(いま)に向ける。彼らがこれまで辿った人生とキャリアの軌跡を振り返り、これから描こうとする軌跡が目指すものに繋がっているのかを観察してもらう。そして、今の自身の状態を棚卸して、自らを取り巻く関係性を確かなものにしていく。
 
これを丁寧にやると、所定の90分間でも足りないことが多い。クライアントによっては、約3-4時間、ダイアログを深め続ける。納得いくまで行う。更に、セッションの後に食事に行くこともあるので、実際の時間はもっと長いかもしれない。
 
でも、そのぐらい真剣に、自分の現在(いま)を掘り下げて、自分自身の在りようを多角的に見つめなおしていく。ものすごい集中力だと思う。そして、その掘り下げたところを“起点”にして、再び、ビジョンを描いていく。想いを口に出していく。油絵のように、何度も何度も塗り重ねていく。想いがビジョンに重なっていく。そのプロセスを通して出来上がっていく“油絵”は素晴らしい。
 
別の経営者は、セッションとセッションの間に起こった出来事の中から、特に課題に感じたことを、ランダムに、そして、スピーディに話す。僕は彼のスピードを落とすことを意識しながら、尋ねていく。なぜ、それを課題に感じたのか?本当のところの原因は何なのか。そもそも、その課題はいつから起こっているものなのか?静かに深めていく。すると、結局は、自分自身を掘り下げていくことになる。その掘り下げた自分から、改めて感じていた課題を見つめなおす。
 
すると、何が起こるのか。シンプルに、やるべきことは一つしかなく、以前から気づいていたそのことが腹落ちする。あるいは、別の解決策の糸口に気づく。あるいは、その一連のプロセスを通して本質に気づいて、そもそもの課題が消えてしまったことに気づく。
 
毎回、A4用紙2枚ぐらいに、前回のセッションで話したこと、今回のセッションで話したい課題をまとめてくる経営者もいる。書かれていることは、強靭な左脳か前頭葉をフル回転させてアウトプットされたものだ。セッションでは、やはり“時間”を意識しながら、書かれていることの行間に迫っていく。結局は、そこに書かれている内容では無く、それを書いた自分自身について掘り下げていくことになる。
 
念のために、彼は真面目と言うタイプではない。凡事徹底で、細事をおろそかにしないだけだ。
  
そんな彼らが、共通して難しさを感じているのが…、

自分の時間を作ること。自分のことだけについて真剣に考える時間を持つこと。本音で話すこと。それを飾らないあり方で他者の視点も借りながら行うこと、だったりする。
 
それによって、どのぐらい業績が上がるの?と尋ねられても僕は分からない。どこかで関係しているのかもしれないし、もしかしたら、業績とは直接リンクしないのかもしれない。でも、これがGiFT partnersのコーチングセッションで僕が行っていることです。