「視座」を高めるとは

最近、コーチングで増えてきているテーマがある。それは「経営チーム作り」と「後継者の育成」で、その本質は重なっている。
 
ブレークダウンしていくと、「相手、あるいは取締役陣の視座をいかに高めることができるか」「自分と相手、あるいは取締役同士の関係性をどう深めていくか」という課題に行き着く。要は、「視座」と「コミュニケーション」だ。
 
コーチングは「コミュニケーションの手法」の一つになる。だから、後者を得意とするコーチは多い。たくさんの手法がある。今回は、前者の「視座を高める」について考えてみたい。
 
まず、そもそも「視座」とは何だろう。「視座」と似た表現に、「視点」「視野」がある。言葉のままに解釈すれば、「視点」はどこを見るか、「視野」はどの範囲を見るか、そして「視座」はどこから見るか、となる。実際には、視点と視座は、意味が重なっているらしい。というのも、辞書的に、「視点」には「注視点(どこを見ているか)」に加えて「立脚点(どこから見ているか)」の意味が含まれるから。

すると「視座を高めるとは」何を意味するのか。こう言えるかもしれない。ものを見る位置を高くして、そこから考えてみる。ビジネスであれば、自分の立場を変えてみる。自分を今より高い立場に置いて見ることで、それまでの自分のもの見方・見え方を超えて、「物事をより広く、全体を、より遠くまで長期的に見る」ということになるのだろう。

では、改めて「視座を高める」ためにどうすればいいのか。経営者である自分自身の視座を高める、経営チームのメンバーの視座を高める、にはどうすればいいのか。

まず、「経営チームの視座をもっと高めて欲しい」という経営者から依頼には、こうアプローチしている。経営チームのメンバーと経営についてもっと話してください、と。経営について話すとは、例えば、「我々のミッションは何なのか」「我々の事業は何なのか」「我が社の一番の課題は何か」「会社はどう変わるべきなのか」etc。それは、1on1でもいいし、経営会議でもいい。そこで行うことは、討議でもディスカッションでもなく、対話・ダイアログになる。求められるのは、正解・不正解でもなく、正しい・間違っているでもない。それぞれの意見の何が同じで、何が違うのか、それはなぜなのか。それをただただ深めていく。経営者と真剣に対話することで、経営チームのメンバーも”視座”の違いが見えてくる。時間はかかるかもしれないけれども、それが一番着実なやり方だ。
  
では、経営者自身はどう視座を高めていくのか。これも、実際にリクエストしているのは、あなたが10億円の企業の経営者であれば、100億円以上の会社の経営者に話を聞きに行ってください。100億円企業の経営者であれば、1000億円以上の経営者に話を聞きに行っていください、と。クライアントの報告を聞く限り、それを行うことは、実際にはそんなに難しくはないようだ。
  
一時期、「知り合いを7人辿れば、世界中の人と誰とでも繋がることができる」という仮説が流行った。確かにそうなのかもしれない。元々は「六次の隔たり」という考え方から来ているそうだ。そして、この手によくあるように、この仮説には誤解釈が含まれている。でも、そう信じれば生きるのが楽しくなる。
 
それとはまた別に、一時期、「あなたは、日頃、もっとも時間を長く過ごしている5人の平均からできている」という仮説も流行った。出所は、ジム・ローンというモチベーションスピーカーらしい。1000億円の起業家の輪の中にいれば、あなたも、きっとそうなる可能性が高まるかもしれない。少なくとも、その視座は手に入るだろう。
 
経営者が経営者の集まりに入る理由が、何となく分かる気がする。